≪鑑賞日記≫ 鈴木舞(ヴァイオリン)&小林侑奈(ピアノ)
2020 / 09 / 17 ( Thu ) 9月12日 木々の葉先が色付き始め 虫の声もして、森はすっかり初秋の気配。 涼風祭もいよいよ最終回。期待を胸に、ヴァイオリニスト鈴木舞さん、ピアニスト小林侑奈さんのデュオコンサートを聴きに出かけました。 プログラムを見たら、まぁ初めて聞く名前の作曲家ばかり。置いてけぼりを喰ったらどうしましょと思ったけれど、そんな不安は吹き飛びました。 初めの一曲目は、セシル・シャミナード「ロンドop.97」 懐かしくてちょっと哀愁を帯びた三拍子、スカートの裾をつまんで踊りだしたくなるような気分になりました。 ![]() マイクを持った舞さん「今日前半はフランスの女性作曲家達の曲を演奏します」と。 (涼風祭ではしばしば出演者自らがマイク片手に解説をしてくださいます。お固いイメージのクラシックもぐっと身近に感じられます♪ だけどステージ上での喋りと演奏、スイッチの切り替えはさぞ大変でしょう…) ![]() 季節や風景をテーマにした演奏会はよくあるけれど、女性の作品という切り口は面白い! 作曲者も演奏者もお客さんのほぼ半分も私も女性。(今どきは男性女性限らず色々な方がいらっしゃいますが) 社会的に活躍が困難だった時代の女性達にスポットライトを当てた選曲には大いに拍手喝采です。 セシル・シャミナード(1857〜1944)はパリに生まれ、女性として初めて社会的地位を築いた音楽家だったそうです。2曲目「カプリッチョ op.18」は、舞さん曰く「気まぐれ、という意味。夜、カッコイイ女性が葉巻を吸ったりウイスキーを飲むようなニュアンスで」。憂いを帯びた旋律に耳を傾けながら、形式に縛られない生き方を模索しただろうパリの芸術家達の人生を想像しました。 二人目のフランスの女性作曲家は、ポーリーヌ・ヴィアルド(1821〜1910)。 ショパンの恋人ジョルジュ・サンドとも交友があったというヴィアルドは、「びっくりするほど醜い」と散々な言われような容姿であったというが、芸術家としての力量、ビロードの上を転がる琥珀になぞらえるほどの魅力的な声質、何カ国後も操る頭の回転の速さ、センスの良さが、多くの男性を魅了したそうです。「美しいものを見飽きた芸術家がぞっこんになったのかも」という舞さん解釈には、吹き出しそうになりました。 「6つの小品より 第1曲『ロマンス』」 ピアノとヴァイオリンの交互に現れる旋律がさらさらと流れる清流のよう。女性らしい切ない恋心を感じる小品でした。 ![]() 続く「第2曲『ボヘミア』」は、打って変わって力強く素早く、そして土臭い。 地理的な重要性から中世から近世にかけて「ボヘミアを征する者はヨーロッパを征す」と言われたチェコ及びボヘミアは、戦続きの地。世界史を紐解いて再度聴いてみたい。それにしても、弓の動きカッコいい! 三人目もパリ生まれの女性作曲家 リリー・ブーランジェ(1893〜1918)。 音楽教師として知られるナディア・ブーランジェはリリーのお姉さん。リリーは幼少期から神童ぶりを発揮しフォーレにも可愛がられたそうですが、病弱で24で帰らぬ人に。惜しまれます。 「ノクターン(夜想曲)」は短調の甘いメロディ。夜の帳が下りる頃、薄暗い部屋の中で独り物想いにふけるリリーが見えるよう。死を予感しながら音楽に向き合っていたのかもしれません。続く「コルテージュ」は一転して愉しい曲。行列を意味するコルテージュ。遊園地で並んで順番待ちする高揚感。綿飴を待つワクワク感。ピチカートで、ンパ ンパ ンパ とクレッシェンドさらにテンポアップ! 子どもに帰ったワタシは七色の飴玉をゲットした気分になりました。 ![]() 前半最後の曲の前に、舞さんと侑奈さんお二人の“馴れ初め”についてお話がありました。 8年程前シャネルが若手音楽家を応援するコンサートに出演なさったのが、最初のご縁だそう。以来しばしばタッグを組んでいらっしゃる。ピタリと息の合った演奏を聴かせてくださるわけですね。 サン=サーンス作曲/イザイ編曲 「ワルツ形式の練習曲による奇想曲」。 初めて弾いたときに二度と弾きたくないと思った と舞さん。演奏家泣かせの難曲を、侑奈さんのラブコールに応えて、今回三度目のチャレンジだそう。 見事な演奏に目も耳も釘付けになりました。 ![]() 複数の弦に同時に弓を当てて弾く重音が矢継ぎ早に続きます。左手の指は瞬時に2本3本と弦を押さえ次々置く場所を変えなければなりません。一本の指は離しても、他の指は弦を押さえたままにしていたり、あるいは次なる音のため指の位置を準備します。舞さんの細くしなやかな指の動きは完璧です。右腕ボウイングの圧力、スピード、上げ下げ、位置、角度も全てが考え練られ、習得に数多の時間を費やしたに違いありません。 しかしどんなに技術が完璧でもロボットには真似できないヒトの心の機微というものがあるもの。曲をどう解釈し昇華させて奏でるかがいちばん大切なことなのだと思います。 舞さんのお話にたがわず、艶やかな深紅の薔薇が花開き、甘い香りが漂ってくるような華やかさにうっとりしました。視覚や嗅覚まで働いているかのように感じるのですから、音楽とはかくも素晴らしく不思議です。 休憩を挟んで後半は、侑奈さんのピアノ独奏から始まりました。ショパン作曲「舟歌 op.60」 イタリアで研鑽を積んでいらした侑奈さんの選んだ曲は、ベネチアのゴンドラを想起させる一曲。ショパン晩年に書かれた「幻想ポロネーズ」「チェロソナタ」に並ぶ大曲だそうです。 ![]() 左手が刻む静かな波のリズムに、ショパンが自分の人生を舟に例えて回顧しているかのよう。男装のフェミニストとして知られる恋人ジョルジュ・サンドとのマジョルカ島への逃避行、パリでの同棲、夏季のヴァカンス… ショパンは、甘く切ない数年間を思い出しながら旋律を紡いだのかもしれません。 ![]() コンサート最後を飾る曲は イグナツィ・パデレフスキ(1860〜1941)作曲「ヴァイオリン・ソナタ イ短調op.13」 侑奈さん曰く、ショパンの楽譜等で日頃お世話になっているパデレフスキ「様」。 舞さん曰く、輝かしい演奏をする国際ピアニストとして長きに亘り賞賛の的となったパデレフスキの一回のコンサート報酬は米国大統領の年俸の何倍もの額だったそうです。 結婚したばかりの若い頃に妻子を相次いで亡くし、それでも失意の底から這い上がり、音楽に献身することを誓ってベルリンに渡り作曲の勉強をした彼は、やがて第一次大戦後の新しいポーランドの首相を務めるという偉業を成し遂げたスーパー凄い人でもありました。 ![]() 生きる苦しみや悩みを感じさせる重く暗い1楽章に続き、2楽章は映画のワンシーンのように牧歌的。草原を渡る風の音、草の匂い、蝶や虫達が飛び交う命の煌めきは希望の光のよう。3楽章はさらに情熱的な高みへと昇っていきます。疾走する16分音符を操るピアノは(侑奈さん曰くオニ難しいけど)超カッコイイ。今回初めて聴いたこのソナタから、人生に荒波と苦難はあれど前を向いて生き抜いていく…そんな力強い決意とエネルギーを感じました。 ![]() 万雷の拍手に応えてのアンコールは、ショパン「ノクターン」。ヴァイオリンとピアノ用に編曲された異なるノクターンを二つ。心に染みてしっとりしていたら「楽しい気分でお帰り頂きたいので」と、嬉しいもう一曲。 シャミナード作曲クライスラー編曲「スペインのセレナーデ」は愉しい一曲。足取り軽く帰路につくことが出来るわ〜。 真っ青なドレスの舞さんは人魚の如く、黒いドレスの侑奈さんはピアノの妖精の如く、お二人が互いを称え合う姿は微笑ましく美しかったです。フルーツの美味しい山梨にまた是非お越し下さい。ありがとうございました。 (ブドウ大好き森のスズコ) |
ご来場の皆さまからのメッセージを紹介します:9月12日 鈴木舞(ヴァイオリン)&小林侑奈(ピアノ)
2020 / 09 / 17 ( Thu ) 2020年涼風祭の最終回は、鈴木舞(ヴァイオリン)&小林侑奈(ピアノ)の実力派デュオが贈る珠玉のアンサンブルでした。
今回も、ご来場の皆様から多くのメッセージを頂きました。 まずは、今回多かったプログラムの構成についてのコメントから。 『すばらしい演奏でした。選曲も仏女性作曲家の曲、知らない曲、ありがとうございました。さまざまな解説もして下さり、曲への親しみも湧きました。聴く毎に舞さんのファンになって行きます。』 『普段耳にしないフランス女性作曲家の作品を選曲してくださり、新鮮な感銘を受けました。ありがとうございます。今後も続けて埋もれたすばらしい作品を取り上げたコンサートを企画して下さい。』 『女性の作曲を取り上げて演奏して下さり興味が湧きました。そのどれもが美しい曲の数々で、とてもいやされました。ショパンのノクターンを2曲聴けて嬉しかったです。』 『プログラムが秀逸でした。広くは知られていない佳作を集め、解説も分かり易く、勉強になりました。曲の感じもバラエティに富んでいましたが、感情豊かな演奏で、楽しめました。最後のパデレフスキ、最高でした。作曲家の情熱と緊張感がストレートに表現された熱のこもった演奏に感動しました。』 演奏や表現などに関する評価も多くいただきました。 『涼風祭の最後を飾るすごい迫力ある演奏に感激!昨年に引き続き舞さんのViolinと侑奈さんのピアノにブラボーです。』 『普段聴きなれない作曲家の作品を見事に演奏してくれました。美しい音の流れ、高度なテクニックに感動しました。』 『「涼風祭」8回のプログラムの中で、楽しみのプログラムでした。ヴァイオリンの響きが鈴木さんの全身からあふれ奏でているような、ホール全体を包み、心地よく、ありがとうございました。』 『舞さんの演奏は昨年のやまびこホール以来です。楽しみにしてきましたし、期待通りの素晴らしい演奏に大満足です。是非、また聴かせて頂きたいです。楽しみにしています。』 『難しい曲が多かったが素晴らしい音色に魅了されました。若手の音楽家が育っている。』 作品(曲)に関する感想も多く寄せられました。 『サンサーンスの曲は難しそうでしたが、ステキな出来栄えで感動しました。女性作曲家の作品取り上げたこと良かったです。ありがとう。』 『サンサーンスの奇想曲、素晴らしかった。華やかで情熱的、また聴きたい!! パデレフスキのヴァイオリン・ソナタ、初めて聴きました。舞さんの解説もとても分かりやすくて良かったです。ありがとうございました。』 『前半、若い演奏家の呼吸が合って、良かったです。特にサンサーンスの曲は二人の持ち味がよく調和して素晴らしかったです。ショパンのピアノ曲は好きです。最後のパデレフスキは初めてでしたが、ヴァイオリンの音色に魅せられました。アンコールの曲も同様です。』 『女性の曲に、大好きな舟歌、パデレフスキは初めてだったがすばらしい演奏でした。アンコールもありがとうございました。』 『第一部はなじみのない作曲家が多かったが、迫力があり、圧倒された。ヴィアルド「ボヘミア」とサンサーンスが特に良かった。』 『今回で2回目の拝聴です。本当にすてきな力強いお二人の演奏、闘病後の身にはとてもエネルギーをいただきました。私の大好きなショパンの夜想曲、アンコールにありがとうございました。』 演奏の合間に作曲家や楽曲の紹介もありました。それについてのコメントも多くありました。 『トークも軽快で曲目の解説が印象的だった。演奏はすばらしいし、音色も多彩でかつ滑からな響きが心地よかった。』 『女性の作曲家を紹介してもらいとても良かったです。女性らしい曲で素敵でした。解説も素晴らしく、分かりやすかったです。こういう解説いいですね。二人とも若くて素敵!』 ********** 涼風祭では毎回アンケートへのご記入をお願いしていますが、今年は8回の公演で428通の回答を頂きました。皆様から寄せられたご意見・ご感想の一部を、このブログでご紹介して参りました。アンケートにご回答いただいた皆様にこの場をお借りし、改めて御礼申し上げます。 (ブログ係り清太郎) |
≪プログラムのご案内≫ 鈴木舞(ヴァイオリン)&小林侑奈(ピアノ)
2020 / 09 / 05 ( Sat ) 2020年の涼風祭も、ついに最終回。 9月12日(土)は、国内外のコンクールで優勝や入賞の実績を誇るヴァイオリニスト鈴木舞さんとピアニスト小林侑奈さんの演奏です。クラシック音楽の本場欧州で活躍し、共演歴も豊富な実力者デュオが美しいアンサンブルをお届けします。 ----- プログラム ----- セシル・シャミナード 作曲 ロンド op.97 セシル・シャミナード 作曲 カプリッチョ op.18 ポーリーヌ・ヴィアルド 作曲 6つの小品より 第1曲『ロマンス』、第2曲『ボヘミア』 リリー・ブーランジェ 作曲 ノクターン リリー・ブーランジェ 作曲 コルテージュ サン=サーンス作曲/イザイ編曲 ワルツ形式の練習曲による奇想曲 <休憩> ショパン 作曲 舟歌 op.60 (ピアノ独奏) イグナツィ・パデレフスキ 作曲 ヴァイオリン・ソナタ イ短調 op.13 ----- プロフィール ----- 鈴木舞(ヴァイオリン) 神奈川県出身。2005年大阪国際音楽コンクールグランプリ、2006 年日本音楽コンクール第2 位、2007年チャイコフスキー国際コンクール最年少セミファイナリスト、2011年アンリ・マルトー国際コンクールファイナリスト。2013年ヴァーツラフ・フムル国際ヴァイオリンコンクール(クロアチア)で第1位、オーケストラ賞。オルフェウス室内楽コンクール(スイス)第1位。2016年スピヴァコフ国際ヴァイオリンコンクール第2位。 東京藝術大学を卒業し、ローザンヌ、ザルツブルグ、ミュンヘンでピエール・アモイヤル、インゴルフ・トゥルバンに師事。在学中より内外でリサイタルやコンサートに出演し、小林研一郎、円光寺雅彦、飯森範親、金聖響、ニコラス・ミルトン、ヨルマ・パヌラ、イヴァン・レプシッチらの指揮で、読売日響、東響、日本フィル、東京シティフィル、山形響、日本センチュリー響、名古屋フィル、広島交響楽団、神奈川フィル、ホーフ響、クロアチア放送響、ザグレブ・ゾリステンと、バッハ、ベートーヴェン、パガニーニ、ラロ、シベリウスなどの協奏曲を演奏している。東京交響楽団と録音したベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲~第3楽章、マスネ:タイスの瞑想曲が日経ミュージックセレクションCD「モーニング・イン・クラシックス」に収録。 最近ではフィンランド・クオピオ交響楽団と共演したショスタコーヴィチ第1番、チェコ・モラヴィアフィルとのモーツァルト第5番、クロアチア・ザグレブフィルとのメンデルスゾーン、スイス・ローザンヌ室内管やクロアチア・ドゥブロヴニク交響楽団とのプロコフィエフ第2番などが高評を得ている。 将来を嘱望される新世代のヴァイオリニストとして、2012年度シャネル・ピグマリオン・デイズ・アーティストに選ばれた。2012-13年度文化庁芸術家在外派遣研修員、2015-16年度ローム ミュージック ファンデーション奨学生。2017年度よりメニューイン・ライブミュージック・ナウ(ドイツ)奨学生。 2017年9月にデビューCD「Mai Favorite」をリリース。 使用楽器は1683年製のニコロ・アマティ。ミュンヘン在住。 小林侑奈(ピアノ) 山梨市出身。山梨英和中学、高校を経て、桐朋学園大学音楽学部演奏学科ピアノ専攻を卒業。同大学卒業演奏会に出演。イタリア・ペスカーラ音楽院修了。ミケランジェリの高弟、ブルーノ・メッツェーナ氏のもとで研鑽を積む。 2013年、ルチアーノ・ルチアーニ国際音楽コンクールにて最高位を受賞したことをきっかけに、イタリア各地でリサイタルを開催、好評を得る。 幼少より、PTNAピアノコンペティションにおいて、B~G級で全国決勝大会に出場し、金賞、銀賞、審査員特別賞等を受賞。第1回福田康子賞選考会に出演。やちよ音楽コンクール第3位。第6回やまなし県民文化祭賞、実賞受賞。大曲新人音楽祭優秀賞受賞。2013年度CHANEL Pygamalion Daysアーティスト。その模様は、テレビ山梨、山梨日日新聞で特集された。 音楽評論家・真嶋雄大氏による音楽講座や、ラ・フォル・ジュルネ音楽祭への出演、2016年にはドイツの老舗ピアノメーカー「ザウター」のプロモーションピアニストとしてドイツ本社を訪問、また全国7か所で演奏を行うなど(㈱島村楽器主催)、多方面で活動。 これまでに長沢あけみ、田崎悦子、黒田亜樹、ブルーノ・メッツェーナ、オラーツィオ・ショルティーノ各氏に師事。松尾葉子氏指揮、トリフォニーホールジュニアオーケストラとリスト:ピアノ協奏曲第1番、船橋洋介氏指揮、ふじのくに交響楽団(静岡交響楽団)とベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番“皇帝”を協演。 現在、日本及びイタリアにてソリスト、室内楽奏者として演奏活動をしながら、後進の指導にも力を入れている。PTNAピアノコンペティション審査員。「スクリャービン全曲録音プロジェクト」メンバー。 ---------- 清里では爽やかな秋の気配を感じるようになりました。 2020年涼風祭のフィナーレを皆さまと共に過ごせることを楽しみにしています。 (清史郎でした) |
≪鑑賞日記≫ 齊藤一也ピアノリサイタル
2020 / 09 / 01 ( Tue ) 8月23日 ようやく秋の気配が感じられるこの頃、ススキを眺めながら音楽堂へ。先程までぱらついていた雨もあがり、爽やかな空気が吹き抜けます。 今日はallピアノのプログラム。新進気鋭のピアニスト齊藤一也さんをお迎えするとのことで、空席待ちの満員御礼。気合いを入れて列に並び、ピアノの鍵盤がよく見える席に着きました。 グランドピアノが照明を絞った薄暗いステージに鎮座、齊藤さんが静かに着席しました。 オープニングはJ.S.バッハ作曲 エゴン・ペトリ編曲「羊は安らかに草を食み」(カンタータ「狩こそ我が悦び」より)。バッハが生まれる少し前、ドイツでは戦争やペストの厄災で人口が激減し、人々の信仰心がより深まったそうです。今の世界と似ているかもしれません。 乾いた土に水が滲みこんでいくように、私の心にも澄んだ音が滲みてきました。 ![]() マイクを持って立ち上がった齊藤さん「今日はライブ配信のお客様もいらっしゃいますね、皆でカメラに手を振りましょう、コンニチワ〜」と(意外にも?)サービス精神バッチリ。 演奏会のサブテーマは「自然と巡る名曲ロマン紀行 〜清里の風にのせて」 高原の空に浮かぶ雲やそよぐ風を感じとり、涼風祭に相応しい曲を選んでくださいました。 ![]() ベートーヴェン「ピアノソナタ第25番 かっこう ト長調作品79」 1楽章にはカッコーカッコーと元気よく鳴くかっこうの声が。2楽章は仄暗い闇の中からフクロウの声が。3楽章、再び陽が昇り、飛び交う小鳥や蜜蜂の羽音が。聴こえました! シューベルト 「即興曲 作品90より 第2番 変ホ長調」 齊藤さんのイメージは風。サラサラと吹き抜ける心地良い風。雲ゆきが怪しくなり鳴り出す遠雷。 私はこの曲を聴くとなぜか懐かしさと切なさが混じった少女時代 を思い出します。 次なる曲は、リスト 「巡礼の年 第一年 スイス」より 「第2曲 ヴァレンシュタットの湖で」 「第4曲 泉のほとりで」 ステージの後ろの壁に、スイスで撮ったという美しい映像が現れました。行ってみたいなぁ… ![]() 続く二曲は鐘の音色の聴き比べです。 「巡礼の年 第9曲 ジュネーヴの鐘」 は、子どもが生まれた悦びや感謝の気持ちが静謐な中に感じられる一曲。鍵盤を打つタッチが気品に満ちていました。 ![]() 「ラ・カンパネッラ(パガニーニの主題による大練習曲 S.141より第3曲)」 街中の教会の鐘が12時になると一斉に鳴り出し、響き渡る様々な音色に包まれて不思議な気持ちになる と齊藤さん。教会の広場に佇む若い音楽家の姿を思い浮かべました。 透明感あふれる美しいラ・カンパネッラ。会場に居るお客さん全員が身動ぎもせず聴き入っているのを感じました。誰もが、素晴らしい演奏を間近で聴ける幸せを噛みしめていたことでしょう。 ![]() 休憩挟んで後半、ラフな黒シャツに着替えた齊藤さんがピアノに座ります。 ショパン「幻想即興曲 作品66 嬰ハ短調」 鍵盤の上を華麗に舞うように長い指が行き来し、光の粒のような音色がコロコロと弾けていました。聴いて美しいだけじゃなく眺めも美しく、演奏者の手にうっとり。 ![]() 最後は、ショパン「24の前奏曲 作品28」 これらは24枚のスライド映像に加え、「ボク(演奏者である一也さん)の思うタイトル」付きでした。勿論、作品から受け取るイメージや感じ方は人それぞれ自由なのですが、この映像とタイトルは一つ一つの短い曲の構想をより鮮明にしてくれました。 自分の繊細な心の内面を旋律に表しても、派手な名前をつけることはしなかったショパンは、リストと違ってシャイだったのでは という解説には目から鱗、納得しました。 唯一タイトルが付いていたのが15番「雨だれ」だそうです。 以下、一也さんの付けたネーミングを番号順にメモしました。 1番 出会い。2番 孤独と不安。3番 清流沿いの風。4番 葬送。5番 妖精たちのお喋り。6番 哀愁のチェロ。7番 寛ぎのひととき。8番 吹雪の中、荒れ狂う心。9番 賢者は語りき。10番 スカルボ。11番 甘酸っぱい思い出。12番 火祭りの踊り。13番 祈りの晩鐘。14番 墓を吹き抜ける幻影。15番 雨だれ、そして死の予感。16番 激昂。17番 牧歌。18番 罪と罰。19番 蝶々。20番 レクイエム。21番 望郷、果たせぬ想い。22番 反逆者たち。23番 木々のざわめき。24番 革命とワルシャワ陥落。 ![]() ![]() ![]() ![]() 最後の24番は、当時ロシアに支配されていたポーランドの苦しい情勢が色濃く映り、人々の絶望と叫びが伝わってくるような激しさがありました。止まない戦争、襲いくる病、死と隣り合わせの時代だったからこそ、自然の美しさと生命の尊さが燦然と光り輝いていたのではないか、自然の持つピュアな美しさに誰よりも敏感だった音楽家たちが、時代を超えて音を紡いできたのだと思いました。 作曲家が音を練り、演奏者が作曲家の想いを再現する。私達はその珠玉の時間を享受することができました。 アンコールは、ショパンのノクターン、子犬のワルツに続き、贅沢にも3曲目が。 ニャンと、子犬のワルツ 猫アレンジバージョン。誰でも一度は鍵盤で遊ぶ「ネコ踏んじゃった」が華麗なネコワルツに変身♪ 猫好きな?ピアニストに出会えてとっても嬉しいスズコでした。ありがとうございました。 (森のスズコ) |
ご来場の皆さまからのメッセージを紹介します:8月23日 齊藤一也 ピアノリサイタル
2020 / 09 / 01 ( Tue ) 8月23日(日)は、齊藤一也さんのピアノリサイタル『自然と巡る名曲ロマン紀行―清里の風にのせて』でした。 来場者の皆様から多くのメッセージ(かなり長いものも多数)を頂きました。いくつか選んでご紹介します。 まずは、これをお読みいただくと全体の雰囲気をご想像いただけると思います。 『久し振りのピアノ演奏会、十分楽しませて頂きました。前半の穏やかな曲からダイナミックなラ・カンパネッラへ、そして第二部のショパン。有名な曲に耳が馴染んだ後、24のプレリュードでは多様な音の世界に誘われ、写真映像が豊かに想像力を広げ一編の文学作品を体験した感じです。感動しました。ありがとうございました!』 演奏技術の素晴らしさについて: 『明晰なタッチが素晴らしい。情感こめて歌えるピアニストです。』 『輪郭のはっきりした主張を持った音の中に繊細でおだやかなやさしく耳にとどいてくる音色を感じました。お人柄!なんでしょうか。』 『選曲及び何と言ってもピアノの技量が素晴らしく、大変楽しませて頂きました。Je souhaite que Monsieur SAITO revienne ici l'année prochaine』 『齊藤さんのピアノを聴いたのは初めてでしたが国内外で特にヨーロッパで研鑽を積まれた方らしく、曲の深い解釈とそれを情感豊かに表現するテクニック、素晴らしかったです。MCや服装もプロのエンターテナーらしく写真とタイトルなど芸術的な工夫も盛り込まれていてとてもぜいたくな時間を堪能させて頂きました。プログラムの構成も秀逸と感じました。』 『曲を素晴らしく奏でる指(魔法の指)の鮮やかさに魅了され感動です。昨年韮崎東京エレクトロンで初めて齊藤一也さんのピアノを拝聴しとても感動しました。機会があれば是非また聴きたいと思っていました。またこうして近くの清里の森の音楽堂で再び感動を味わうことが出来ました。ありがとうございます。今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます。』 各曲へのコメントも多くいただきました。 『コロナウィルスというなかで、ピアノリサイタルとても良かったです。私の好きな曲、1.シューベルト即興曲、2.リスト ラ・カンパネッラ、特にリストの曲は最高でした。いつも大きな会場できくことが多かったですが、清里の森の会場できくピアノはよかったです。』 『構成が面白いと思いました。「巡礼の年」の2曲と4曲がとても美しかったです。現地にいらしての印象が曲に織り込まれているのでしょうか?』 『久々にallピアノのプログラムを聴きました。ラ・カンパネッラは大変すばらしく、涙が出ました。生演奏を聴けるよろこびを強く感じました。後半も素晴らしかったです。ブラボー、ブラボー』 『第一部、どれも素晴らしくて!! ベートーヴェン25番はよく聴いていましたが「かっこう」の解説を伺って、今回あらためて「カッコウ!カッコウ!」に聴こえました。”清里の森”にふさわしい選曲をありがとうございます。ラ・カンパネッラの難曲演奏を久々に生で聴いて、私まで力が入って演奏者がより大きく感じられ、これもありがとうございます。』 『ベートーヴェンのピアノソナタ25番素晴らしかった。心地良い音色で幸せでした。リストのラ・カンパネッラも期待通り。ショパンも聴くことができて良かったです。ずっと聴いていたかった。』 齋藤さんによる作曲家や曲目についての丁寧な説明加えて、ご自身が撮影したヨーロッパの写真をスクリーンに映しながらの演奏もありました。それに関連したコメントも多かったです。 『齊藤さん自身から曲目の生まれた背景と自分の曲へのイメージを解説して頂いたのでより曲に入り込めて堪能できた気がします。素晴らしい演奏で感動しました。』 『知らない曲に対しても細かい説明があり、大いに楽しめました。清里の森の音楽会にふさわしい、自然をテーマにされた選曲で、とてもよかったです。繊細さと迫力もあり、又聞かせていただきたいPianistです。』 『単に演奏するだけでなく、プログラムへの思いや写真など工夫があって知っている曲でも違った視点で、はじめての曲は興味をもって聴けて、とても良かったです。ご本人の思いが聞けたのはすごい!』 『毎回齊藤さんのコンサートを楽しみにしています。24の前奏曲とてもよかったです。プログラムの曲目についての解説が楽しみで、曲へのイメージがいっそう深まり、親しみと感動を覚えます。これからもトークと共にピアノを聴ける事を楽しみにしています。ありがとうございました。』 『演目もよかったです。ショパン24の前奏曲、映像とそれぞれのタイトルありとてもよかったです。演奏が体にしみ込み、体の細胞が生き返るような気がしました。すばらしい時間をありがとうございました。』 今回は特にコンサート直後の高揚した気持ちが伝わってくる内容が多かったと感じました。メッセージをお寄せいただいた皆さま、ありがとうございました。 (清太郎でした) |
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