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≪鑑賞日記≫ 山口裕之とN響の仲間たち
2020 / 08 / 13 ( Thu )
8月9日、百合の香りのする森の中をいそいそと音楽堂へ。今日も市松模様の満席だ。

涼風祭第4日は正統派クラシック。NHK交響楽団 通称N響のコンサートマスターを長きにわたり務めた山口氐率いる現役N響弦楽奏者達の登場だ。
N響といえば、日本のクラシック界最高レベルの有名なオーケストラ。国内外の名だたる指揮者やソリスト達とも共演し、その演奏は電波に乗って世界中に配信されている。
だからマチネへお出かけするのに、ちょっとだけお洒落をしました。

幕開けのブザーが鳴り、黒服の四人が椅子に着席。
向かって左から1stヴァイオリン 山口裕之さん、2ndヴァイオリン 宇根京子さん、チェロ 山内俊輔さん、ヴィオラ 飛澤浩人さん。

41着席

静かで仄暗い旋律が流れ出した。
第一曲目はベートーヴェン作曲 「弦楽四重奏曲第9番」ハ長調Op.59-3
ラズモフスキー伯爵の依頼によって作曲された3番目の曲なので、ラズモフスキー第3番とも呼ばれている。
(配られたチラシに曲目解説が。和声とか、ソナタ形式とかに自分は疎いので… 曲の詳しい構成についてはご勘弁を。)
私の印象に残ったのは、酒場のベースみたいでカッコ良かった第2楽章のチェロのピチカート。そして力強い4楽章。ヴィオラ→2ndヴァイオリン→チェロ→1stヴァイオリンへ と旋律が受け渡され高揚感が高まっていくところ。(カエルの歌が聴こえてくるよ →カエルの歌…の輪唱のように。) 同じドイツの作曲家メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲の中でもずらりと並んだ弦楽器が旋律を次々受け渡す重奏の調べが出てくるのだが、若きメンデルスゾーンもベートーヴェン先生の影響を色濃く受けたに違いない。

ベートーヴェンといえば、音楽室の壁にかかっていた髪ボーボー睨みつけるような肖像画を思い浮かべますね。1770年にドイツ ボンで生まれ1827年ウィーンで没したルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、古典派音楽の集大成かつロマン派音楽の先駆者。「楽聖」と呼ばれています。飲んだくれの父親にモーツァルトのような音楽家になれと尻を叩かれて育った彼は、恋をしては恋に破れ、そして耳が聴こえなくなり、さらに甥の親権を得るが甥ともギクシャク…と人生うまくいかないことだらけ。だけど不遇の人生に屈しないで「月光」や「運命」など数々の名曲を後世に遺しました。しなやかなバネのような強さレジリエンスを持った人物だったのだと思います。

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休憩はさんで第二曲目は、バルトーク作曲「弦楽四重奏曲 第3番」Sz.85
バルトーク・ベーラ・ヴィクトル・ヤーノシュは、1881年ハンガリーで生まれ、第二次世界大戦が終わった1945年ニューヨークで亡くなった作曲家、ピアニストで、民俗音楽研究家でもありました。本人は「若い頃の私にとって、美の理想はベートーヴェンだった」と回想していますが、やがて東欧各地の農民音楽を採集し、過去の音楽に目を向けて新しい音楽を生み出そうと独自のスタイルを確立していきました。

44Bartók

不思議な空気感で曲が始まった。宇宙船がどこか見知らぬ場所に不時着したみたいな感じ。ポルタメント(音から音へ滑らかに徐々に音程を変えながら移る演奏技法)の ふに〜という音がユニーク。弓を弦の上でパンパンッと連打した後、ふに〜。パンパン、ふに〜。気だるい雰囲気が漂います。どこか居心地の悪い不協和音は、未来への不安でいっぱいなコロナ時代の心のよう。

45フニー

速いテンポのコーダ(終結部分)は、第一ヴァイオリンの旋律が際立ち、打楽器的なリズムに土の香りを感じました。バルトークの魅力、私達日本人には伝わりにくいかもしれませんが、新しい音楽世界を発見できたら面白いですね。

バルトークの後、再び休憩。最前列の席にいた小さな女の子の姿はいつの間にか無く、
あー演目が難解だもんね…と思ったのでした。
出演者の自己紹介しないのかなぁという期待虚しく?最後の一曲が始まりました。でも、これぞ正統派室内楽。硬めのステージもまた愉し。

今回はメンバー紹介が無かった代わりに、以下私が勝手に想像してみました…
一見生真面目、実はオモシロギャグを連発するお方。ストイックな雰囲気の謎の美女。N響は仮の姿で夜はバーテンダー。不愛想な愛妻家。(順不同)

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…繰り返しますが これ“全部私の妄想”です。Mozart in the Jungleの見過ぎね♪ どうかご容赦を。


第三曲目は、再びベートーヴェン作曲「弦楽四重奏曲 第15番」イ短調 Op.132
(はじめに聴いた)弦楽四重奏曲第9番の19年後に作られた。指折り数えてみたら亡くなる2年前の五十代半ばだ。重い病気のために途中で中断され、快復してから挿入されたという「病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌」第3楽章が、とりわけ滋味深く美しい。
ヴァイオリンが奏でる長く均整のとれたボウイングの繰り返しが、祈りのようにも思えました。

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第5楽章は、厳しい中にも光が見え、明日への希望が湧いてくるような力強い結びで締め括られた。途中「エリーゼのために」似の旋律があるように聴こえ、やっぱりベートーヴェンだわ〜と思った私。
緻密で高度なテクニックを要する大曲を顔色ひとつ変えずクールに、しかし情熱的に弾ききった四人の奏者の皆さんへ惜しみない拍手がおくられました。

熱い拍手に応えてのアンコールは、日本のうたメドレー。

47メドレー

夕焼け小焼けの赤とんぼ…アリさんとアリさんがこっつんこ…月夜だ皆出てこいこいこい…ズイズイずっころばし…小さい秋みつけた…もしもし亀よ亀さんよ…赤や黄色の色とりどりに…どんどんヒャララどんヒャララ…そーっと覗いて見てごらん…富士は日本一の山…夕焼け小焼けで日が暮れて… 童心にかえり、静かに暮れていく風景で幕が閉じました。

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今年はベートーヴェン生誕250年。だから、Allベートーヴェン プログラムがあちこちで華やかに開催される2020年の筈だった。よもや、未知の感染症によって世界中の音楽家達が演奏する機会を失うとは。その不意に襲った災難は、病いに苦しんだベートーヴェンの苦境と重なる気がします。
山口さんが「ここで演奏出来たことで、ベートーヴェン先生に恩返しができる」とおっしゃいました。私達も待ち望んでいた室内楽を堪能できました。ありがとうございました。

39ヤマユリ
音楽堂のヤマユリ

(清里のエリーゼおばさん)
03 : 51 : 54 | 感想文 | コメント(0) | page top
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