<<鑑賞日記>> 極上の響きで愉しむケーナの世界~渡辺大輔 Quena WORLD~
2023 / 08 / 12 ( Sat ) 八月に入り、清里の森も賑わってきました。 涼風祭第3回はケーナを中心に五人のアーティストをお迎えしました。 笛を片手にステージに現れた爽やかな風貌の渡辺大輔さんとピアノ 根木マリサさん。 ステージ真ん中にすっくと立って縦に笛を構える大輔さん。固唾を飲んで始めの一音を待つ聴衆。 と、朗々と会場に響く澄んだ音。おぉ…これがケーナの響きか… 一曲目は、南米ペルーで星に祈りを捧げる祭で演奏される曲「コユール」。コユールとは星を表すそうです。 ケーナは、インカ帝国の栄えた三千年の昔から、中央アンデス諸国 ペルー、ボリビア、エクアドル、アルゼンチン、チリ辺りで使われてきました。材料は竹。(動物の骨や葦、木でできた物もあるらしい。) 温暖な気候、湿潤な環境でよく育つ竹は日本や中国のみならずアンデスにも自生。それを切ってきて穴(七つ?)を開けただけの筒状のケーナ。管は両端とも開口していて上端の拭き口はU字型の切り込みが入っています。尺八に似てますね。 私、(食品の)竹輪に穴を開け、齧って長さを短くしながら音を奏でる人のオモシロ映像を観たことありますが、音が出る仕組みは同じかな? シンプルな作りということは、つまり奏者の高い技量が要求され、熱量によって音色のクオリティが変わってくるということ。期待が高まります。 ![]() 続いてさらなるお仲間、パーカッション 熊本比呂志さん、ヴァイオリン菅野朝子さんも加わって、2曲目 は、知らない人はいない「コンドルは飛んでいく」。 三千年に一度きりのメガヒット曲 (笑)と大輔さん。世界最大級の鳥コンドルは、上昇気流に乗ってアンデスの険しい山並を舞い飛びます。 ![]() 続いて、スタジオジブリ「もののけ姫」。映画の中で聴こえてくる笛の音は全てケーナなのだそう。耳を傾けていると、仄暗い森の奥深く、息を潜めて佇んでいるような感覚に。 ケーナのバックを支える三人の演奏者たちもピッタリ息があっています。 控えめながら万能選手の鍵盤ピアノ、抜群の安定感あるヴァイオリン、リズムきっちり、お洒落に鳴物を操るパーカス。管のケーナに加えて鍵盤、打楽、弦楽と、あらゆる奏法楽器が集結、音に厚みが出て奥行きのある美しいハーモニーが会場に響きます。 次は「踊りを体験しよう!」のコーナー。ちゃらら〜ん♪ ボリビアではクエッカと呼ばれる舞曲があり、6/8拍子のリズムに乗せて男女のペアが白いハンカチを振りながら踊るんだそう。ほろ酔いの観客達は手拍子で踊りを盛り上げます。 今日は大輔さん作曲「ラス・アラス」(翼という意味)の軽快なメロディにのって会場のお客さんも手拍子にチャレンジ。 チョット難しいヨと言われ皆真剣、大輔さんの足踏み合図にターンタ、ターンタ と手を打ちます。わ、楽しい🎶 みんな笑顔になったところで、二胡を抱えた今井美樹さん登場です。 (今井美樹さんって…同じ名前の歌い手さんがいましたね。) まだ二胡が知られていなかった時代、美樹さんは不思議な箱型マシンガンを操る人と勘違いされたとか。 二胡は、中国の伝統的な擦弦楽器、2本の弦の間に挟んだ弓で弾きます。 琴筒はニシキヘビの皮、弓の毛は馬の尻尾。トルコ、イスラム辺りが発祥地、シルクロードを東に伝ってきたのが二胡、西へ伝わったのがヴァイオリンなどの弦楽器、ルーツは同じらしい。 ![]() ケーナ、ピアノと共に2000年初頭のヒット曲「燕になりたい」を演奏、哀愁を帯びた独特の音色に会場皆が聴き入ります。 あの人を追いかけて、燕のようにまっすぐに翔んでいきたい…帰ってこない人を想う切ない気持ちがヒシヒシと胸に迫ってきました。 続いてはフルメンバーで、昔NHK特集で放送され耳に馴染みのある「シルクロードのテーマ」 大輔少年の心の音楽の扉を開いたという喜多郎さんの原曲は、シンセサイザーによるもの。ステージの演奏に耳を傾けながら、私は平山画伯が描いた砂漠を行くラクダの隊列の絵を思い出していました。 ![]() ![]() 従姉妹みたいな関係の、2本弦の二胡と4本弦のヴァイオリン。ヴィブラートをかけたときの艶っぽい音色はやっぱりどこか似ています。 ヴァイオリン菅野朝子さん、ケーナの三度下を弾き音に厚みを持たせたかと思うと、美しいメインメロディを奏でたり、いつも落ち着いて頼りになるお姉さんみたいな存在感がありました。 特筆すべきはパーカッション熊本比呂志さん。打つ、擦る、振る、八面六臂の大活躍。ここぞというところでピリッと効いた音。決してブレないリズム。縁の下に徹して、さりげないところが尚更カッコよくて素敵です。 ![]() 前半最後は「碧の楽園」 大輔さんは開演前にプチ散歩、音楽堂前の池のほとりから北にそびえる赤岳が見えてテンション上がったそう。山登りもするという大輔さんが作曲した「碧の楽園」は八ヶ岳ブルーと言われる澄み切った空の青、山の尾根に咲く可憐な花々を想起させてくれました。 休憩挟んで、後半もピアノ&ケーナのデュオで始まりました。 ![]() 三拍子の「シエリト・リンド」はメキシコの国民ソング。同郷の人々が集まると賑やかに歌って盛り上がるらしい。 (ルーツが長野県の私は「信濃の国」で盛り上がります、そんな感じ?) デュオ2曲目は、 ピアフのシャンソン「巴里の空の下」。アコーディオンやハーモニカで演奏される曲を、ケーナで。途中からピアノがメロディラインを奏でます♪ ジャズピアニスト根木マリサさんは背中の開いたドレス姿で(私から見ると殆ど後ろ姿なんだけど)、鍵盤タッチはクールかつハンサム 。この方のガンガン弾くジャズ、いつか聴いてみたいな♡ ![]() 続いては、「アンデスの音楽を勉強しましょう」コーナー 。キンコンカンコーン🎶 過去3000年から500年程前まで、五穀豊穣を祈る祭祀に使われる笛や太鼓はピーヒャラピーヒャラ、ドンドーン とドレミファ以前の音でした。 大輔さん、チョケーラという縦笛の音色を披露してくれました。(この土着っぽい音も味わいあるなぁ。) スペインの大航海時代以降、社会・文化の変容と共に西洋音階が取り入れられ、よって楽曲のレパートリーもぐんと拡がったわけですね。 ![]() ここで、アンデス地方の民族音楽フォルクローレに欠かせない楽器を一つ紹介しましょう!と、おともだち登場。 サンポーニャ(現地語ではシーク)の達人、石原慎矢さん です。 ![]() サンポーニャは、一つの管が一つの高さの音しか出せないので長さの異なる管を束ねた形状。かつては(ドミソ村とレファラ村に例えて)異なる音程を別々に分担してハンドベルの如く各人が交互に 奏でる楽器でしたが、近頃は二つの楽器を重ねて持ち全部の音を一人で出すようになったとか。 「リャキルナ」 ケチュア語で悲しい人という意味、鉱山で働く少年の悲哀を歌ったボリビアの伝承曲をステージ六人全員で演奏。 サンポーニャ。砂と土の広大な大地を吹き抜ける風のような音に聴こえました。慎矢さん、友情出演ありがとうございました。 続いての風景は日本に移動して、茨城県出身の大輔さんオリジナル曲。 冬に山から冷たい風が吹き降りてくる筑波おろしから想起した「木枯らし 〜風の詩(うた)〜」 かじかむ指先、冷たい耳たぶ、白い息…大輔少年の冬は寒かったんだろうなぁ。 最後に、ケーナ・ワールドとは何なのか?というお話を。 18歳の春、「リャキルナ」に聴き惚れた大輔さん。当時は楽器の正体も知らずただ憧れていたけれど、ケーナという武器を手に入れてから、頭の中のイメージをアウトプットできるようになったそうです。 大輔さんのこよなく愛するケーナで表現する音楽世界が、ケーナ・ワールドなんですね。音色が美しく、音域が広く、多彩な表現力をもつケーナというスーパーシンプルな笛だからこそ、国境を超えて世界中いえ宇宙中の音楽を奏でることができるのだと思いました。 X JAPAN のYOSHIKIさんのファンだという大輔さんの選んだ〆は 「Forever Love 」ケーナバージョン。 人生紆余曲折、いろいろあるけど希望を胸にゆっくりでも歩んでいこうよ…そんなメッセージを感じました。 ![]() アンコールは、ハンマーダルシマー奏者 小松崎健作曲の「3月はマーチ」🎶 草木が一斉に芽吹く春の陽光を浴びたよう、元気が出ました! 熱い拍手に応えて、さらなるアンコールは大輔さんオリジナル曲「トワイライト」。 地平線の彼方に太陽が沈んだ後の静かな黄昏時。また明日ね、と友と別れる気持ちを表現したそうです。 渡辺大輔さん、ケーナワールドお仲間の皆さん、楽しく素晴らしいステージをありがとうございました。 幸せな気分に包まれて、わたし達もまた今度ねと手をふって別れたのでした。 森のスズコ |
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