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<<鑑賞日記>>実力派デュオが贈る珠玉のアンサンブル 鈴木舞(ヴァイオリン)&小林侑奈(ピアノ)
2023 / 08 / 13 ( Sun )

涼風祭、私が楽しみにしている演目のひとつが、華麗なクラシックのデュオ。ヴァイオリニスト鈴木舞さん、ピアニスト小林侑奈さん、涼風祭ではすっかりお馴染みの二人を今年もお迎えしました。

ステージに艶やかなロングドレスのお二人が登場。
帰ってきたなという気持ちになります、山梨の硬めの桃がすっかりお気に入りという舞さん。あら私も「硬めの桃」派です♡

舞あいさつ


さて、今回はブラームスとシューマン夫妻にスポットを当てて演奏します、ドイツロマンの世界に浸ってください と侑奈さん。

1、ブラームス「6つの小品より『間奏曲』op118-2

ブラームスが晩年、クララ・シューマンに捧げたインテルメッツォ。当時ブラームスは61歳、クララは75歳。この作曲の数年後に二人とも相次いで天に召されました。
穏やかな旋律に、信頼し合っていた二人の心情を想いながら耳を傾けました。

※ 登場する三人の関係を解説

ヨハネス・ブラームス(1833〜1897)は無名だった二十歳の頃、ロベルト・シューマン(1810〜1856)に才能を見出されます。実力派ピアニストだったシューマンの妻クララ(1819〜1896)も彼を高く評価していました。
しかしシューマンは心を病み、ライン川に身投げし、救助されたものの療養所に収容され、二年後46歳で他界。恩師夫妻のため、ブラームスは献身的に14歳年上のクララと子供達を支えました。ブラームスとクララは生涯、音楽を通じて心からの愛情と絆で結ばれていたと言われています。

2、ブラームス 「F.A.E.ソナタより『スケルツォ』」

この曲はヴァイオリニスト・ヨアヒムの為にシューマン、ディートリッヒ、ブラームスにより作曲された曲で、3楽章のスケルツォはブラームスが担当。FAEとはヨアヒムのモットー frei aber einsam [自由に、しかし孤独に]の頭文字をとったもの。シューマンの発案で F-A-E (ファ、ラ、ミ)の音進行を織り込んだ主題を作曲するというものでした。
後に、ブラームスは自分のモットーを frei aber froh [自由にそして楽しく]とし、F-A-F (ファ、ラ、ファ)という音進行を用いるようになったそうです。凡人には考えつかない遊び心ですね。

スケルツォ冒頭はヴァイオリンの同音連打で始まり、それにピアノが続きます。速い短調の旋律は迸る熱い感情のよう。中間部はF-A-Eをモチーフにした美しい旋律、そして最後は黒雲が去ったように明るく長調の和声で終わります。

真剣

より真剣


3、ブラームス「ヴァイオリンソナタ第1番」ト長調 『雨の歌』op.78

オーストリア、ヴェルター湖畔の避暑地ペルチャハで夏を過ごしていたブラームス は、1879年クララに送った手紙で、病床にあったクララの末息子フェリックスを見舞いますが、フェリックスは若くして亡くなり、ブラームスは失意の中、ヴァイオリンソナタ第1番を完成させます。
詩人グロートの “雨が降ると素足になってはしゃいだ子どもの頃を懐かしむ” という詩がついた「雨の歌」は、かつてブラームスがクララの誕生日にプレゼントした歌曲でした。第3楽章冒頭のメロディに「雨の歌」をモチーフに取り入れたのは、悲しみにくれるクララを慰めようとしたのでしょうか。クララは天国の息子にこの曲を持っていきたいと述べるほど愛着を持っていたそうです。
歳を重ねるごとにこの曲の魅力に気づくようになったという舞さん、ピアノの音色は水の如く、ヴァイオリンの音色は森の如く…と清里の地にイメージを重ねてしっとりと演奏してくださいました。

休憩の後は、侑奈さんのピアノ独奏から。

4、ショパン 「バラード第2番 」へ長調 op.38

侑奈MC

1839年に完成、シューマンに献呈されましたが、シューマンは第1番の方を高く評価していたそうで…師匠は手厳しいですな。

ピアノ


ハ音(ド) ユニゾンの穏やかな讃美歌のような主題の後、突然豹変したかのような激しいイ短調が現れ、2つの対照的な曲想が進行。まるでジキルとハイドのよう。凪(なぎ)のような音、そして厳しい音を交互に紡ぐ侑奈さんのショパン、本当に素晴らしいと思いました。
(小林侑奈さんの演奏をもっと聴いてみたくなり、後で久々CD買いました〜(๑・̑◡・̑๑))

続いてはヴァイオリン名器ニコロ・アマティを抱えた舞さんが再び登場。

5、シューマン (アウアー編曲)「献呈」

ロベルト・シューマンとクララ二人の交際は、(かつてはロベルトの師匠だった)クララの父親フリードリッヒ・ヴィークの猛反対と執拗な妨害、法廷での泥沼闘争を乗り越え、1840年ついに結婚へと漕ぎ着けます。
その結婚式前日、妻となるクララに捧げた「ミルテの花」という歌曲が原曲の「献呈」。白い梅のような花ミルテは花嫁のブーケに使われる花で花言葉は「愛のささやき」。なんてロマンチックなエピソードでしょう♡
伸びやかな旋律がシューマンの歓喜と、心の底からのクララへの愛情を表しています。

髪なびかせ


6、クララ・シューマン「3つのロマンス」op.22

クララはスーパーウーマンだったと舞さん。
彼女は結婚後13年の間に八人の子どもを産み育て、自身のピアノ演奏で各地を飛び回って家計を支えていました。夫が曲作りしている時は妨げないよう自分のピアノ練習を控えたり、知名度が低く「クララの旦那さん」と屈辱的な扱いを受けていた夫ロベルトへの気遣いもありました。
(家事もこなすバリキャリ妻と、同じ業界人なのに冴えないオットという構図?)
クララ34歳、ロベルトの精神状態が悪化して入院する一年前に作曲された「3つのロマンス」。夫を案じる妻の不安な心情が見え隠れするようです。

7、サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」

最後はヴァイオリン弾きの誰もが憧れるこの名曲で。
19世紀を代表するスペイン出身の名ヴァイオリニスト、パブロ・デ・サラサーテ(1844〜1908)作曲 「ツィゴイネルワイゼン」はロマの歌という意味。
ロマの人達は流浪の民として古くから迫害されてきました。ジプシー(英語)やツィゴイナー(ドイツ語)という呼称は、物乞いや盗人の代名詞のように使われ、差別用語として忌避されるようになりましたが、「私の物は私の物、みんなの物も私の物」持てる人から貰うのは当然(笑)という考え方は昔から変わらないのかもしれません。(旅行に行ったらスリにご用心)。
理不尽な差別への怒りや悲しみ、そして自然と共に生きる暮らしの中の風の音、鳥の声。活き活きとしたロマの音楽の特徴は、テンポや強弱の激しい変化や交代、大らかでエネルギッシュなヴォーカル。コード進行も独特な音階が多用されます。その音楽はバルトークやリスト、サラサーテなどクラシックの作曲家に多大な影響を与えました。

のけぞり

弓上


超絶技巧のこの難曲を華麗に弾く舞さんの姿に会場中のお客さんが目を凝らし、惚れ惚れと聴き入りました。

満場の拍手、ブラヴォーの声に応えて、アンコールは
ブラームス「ハンガリー舞曲 第5番」ヴァイオリンバージョン
憂いを含んだゆったりとした旋律、ぶんぶんと高速になるところ、この切り替えがなんともロマ音楽的。一杯ひっかけて踊り出さずにはいられない愉快な気分に🎶

今日の会場には目の不自由な方も来場していらっしゃいました。
その方が帰り際、楽しげに口ずさんでいらっしゃいました♬
美しい音楽は人生に彩りと、明日への希望を与えてくれますね。

お辞儀

称え合う


舞さん、侑奈さん、今年も素晴らしい演奏をありがとうございました。
またお目(耳)にかかる日を楽しみにしています。

森のスズコ







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