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<<鑑賞日記>>8月20日 山口裕之ストリングカルテット
2023 / 08 / 25 ( Fri )

残り二公演となった涼風祭。音楽堂前には移動販売車や葡萄を売るテントが出て、お客さん達はなにやら楽しげです。

N響の四人をお迎えするのは、連続四年目。
長年コンマスの重責を務めた山口裕之さんと、彼の率いる実力派のヴァイオリン宇根京子さん、ヴィオラ飛澤浩人さん、チェロ山内俊輔さんです。

s開始4人


毎年同じ台詞で恐縮ですが、
バルトークって誰?
ベートーヴェンってどんな人?
弦楽四重奏の聴きどころは?

お知りになりたい方は過去の鑑賞日記をご笑覧ください。
2022年鑑賞日記
2021年鑑賞日記
2020年鑑賞日記

さて四年目はどんなバルトークでしょう?
私も前勉強無しで、弦楽四重奏 第6番 初めて聴きました。

s左2人

s右2人


バルトーク「弦楽四重奏曲 第6番 Sz.114」

1939年に作曲された最後の弦楽四重奏曲。ビオラのゆっくりなボウイングで「悲しげに」始まり、それが皆に伝播していくよう。楽章が進んでも不毛で繊細な調べは続き、いつまでも終わらない不条理劇を観せられているかのよう。
世界史を紐解くと…1939年、ナチスドイツがポーランドになだれ込み、世界は第二次大戦へと突き進んでいたのでした。ヨーロッパに不穏な戦火が拡がる中、バルトークはアメリカへ亡命、この曲がヨーロッパで書かれた最後の作品となりました。船でニューヨークへ向かいながら、何度も祖国ハンガリーを振り返った作曲家の胸中は。そう知ると、何故この曲が苦虫を噛み潰したように厳しく、受け入れがたい気持ちになるのか、少しだけ謎が解けた気がします。

s遠景4に


同時に、山口裕之さんがこれを選んだ意味も考えてみたい。今も続く紛争、内戦や人権侵害。そういった現在進行形の絶望感を表してはいないだろうか?と思うのです。

しかしながら客席に目をやると、ゆらり首が前に倒れている人が散見されました。あぁ、眠ってるぅ…とそれを見ていた私もなんということでしょう、最後の楽章で意識が遠くなり、観客の拍手で目が覚めました。わ、寝てしまった!
ロマン派を聴き慣れた耳には正直難解な第6番でしたが、ベートーヴェン以降最大の業績と讃えられているバルトークの旋律を、いつか再チャレンジして聴きたいと思います。



休憩挟んで後半

s第2部はじめ山口マイク

シューベルト「弦楽四重奏曲第14番 ニ短調 D810 『死と乙女』」

※ オーストリア生まれのフランツ・ペーター・シューベルト(1797〜1828)の一生は、ベートーヴェンの後半生と重なっています。彼はベートーヴェンの葬儀に参列、酒場で「この中で最も早く死ぬ奴に乾杯!」と不吉な音頭をとり、一年後に寿命が尽きたという逸話が残っています。死因は腸チフス、享年31歳。二十代で梅毒に罹患してからずっと体調不良。それでも1000近い未完を含む作品群を遺し、音楽学者ドイチュによる目録(D)で整理されています。

Franz_Schubert_by_Wilhelm_August_Rieder_1875.jpg


ワタシの父はシューベルトが大のお気に入りで、実家の三姉妹は歌曲「美しき水車小屋の娘」「冬の旅」をレコードで聴いて育ちました。
しかしシューベルト晩年の弦楽四重奏第14番は、全ての楽章が短調で書かれています。第2楽章が歌曲『死と乙女』(作品7-3 D531)に基づいているので、この愛称で親しまれていますが、自身が病魔に冒され死期を感じていたから、こんなにも暗く重いのかもしれません。

s死と乙女4人


1楽章、感情が激しく噴出するドラマチックな出だしを聴くたびに思い出すのは、昔NHK朝ドラで放送していた「花子とアン」。お煎餅をバリバリ食べてる大富豪の前で弦楽四重奏「死と乙女」が演奏される、という一シーン。ヒロインの悲劇的な最期を予感させるようで印象に残りました。
2楽章、死を悼むかのような美しく静かな旋律。
3楽章、時折激しい怒りや嘆きの音が。
4楽章、馬のギャロップのように切迫した速いテンポで、四つの楽器が呼応しながら徐々に高みに昇っていき、最後は短調の和音で締めくくられます。

ベートーヴェン「弦楽四重奏曲『大フーガ』変ロ長調 op.133」

今日の三曲目、これまた作曲家晩年の作品。ベートーヴェンが完全に聴覚を失った1825〜1826年に書かれました。
19世紀から長い間、大フーガへの理解は進まず失敗作と見なす向きもあったそうで「わけのわからない取り返しのつかない恐怖」「人好きのしない曲」「中国語のように不可解」と、散々な言われようだったそうです。
しかし現在では評価が好転。ストラヴィンスキーは「絶対的、永久に現代的な楽曲」と述べています。

s大フーガ4人


私はこれを聴きながら、前衛的でまるでバルトークの曲みたい!と思ったのです。
理解に遠く苦行のようでもとりあえず聴いてみる、それもコンサートの狙いだったのでしょうか?山口裕之さんにお尋ねしたいです。

sお辞儀4人


アンコールは今回も日本の歌メドレーで。
めっちゃ硬い乾飯の後の綿菓子のような童謡のメロディが耳に優しく感じました。

s最後


まさかの寝落ちに驚いた自分、次はちゃんと目も耳も開いて拝聴します。
粛々と素晴らしい演奏をしてくださったカルテットの皆さま、ありがとうございました。

森のスズコ
10 : 24 : 11 | 感想文 | コメント(0) | page top
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